惑星ラムーラ編 アンジェリカ 捕獲e

アンジェリカ・ミルフーヴァ

〜封じられた奏者の腕〜

 プシュゥゥ!

 音を立てて、コンテナの蓋が開いた。

 中には西洋人形の如く美しい、アンジェリカが収納されている。

 彼女は怯えた目でこちらを見上げた。

「着いたぞ。ここがお前の新しい家だ」

「んんっ…」

 俺はアンジェリカをコンテナの中から引っ張り出し、鼻と口を覆うマスクを外してやった。

「む、ぐ…ぷぁっ!? はぁ、はぁ、ここは…どこなんですか?」

 辺りを見回しながらアンジェリカが問いかけてきた。

「ここは姦獄艦ツナギシ。女を監禁し宇宙を旅するために作られた宇宙船だ。そして、俺はここの艦長ツナギシだ」

 以後お見知り置きを、とわざとらしく挨拶してみせる。

 アンジェリカはそれには反応せず、続けて尋ねた。

「こんなところに連れてきて…目的はなんなんですか…? お金、ですか…?」

「金、ねぇ…。確かにコロニーでも屈指の名家、ミルフーヴァ家ならたっぷり身代金を要求できそうだな?」

 アンジェリカは悔しそうに目を伏せ俯いた。常に名家の人間であることに自覚があるのか、自分のせいで家に迷惑がかかると思っているのだろう。

「それも魅力的だが、俺が欲しいのは金品じゃない。お前自身だ」

「私…?」

「さっきも言ったと思うが、ここは女を監禁することを目的に作られている。今はまだ少ないが、これから各惑星で見つけた魅力的な女どもをここへ連れ込み、俺の船のクルー兼性奴隷として飼うための施設だ」

「性、奴隷…!? なにをいって…」

 およそ上流階級の人間には縁遠い用語を聞かされ、アンジェリカは困惑していた。

 追い討ちをかけるように、俺は続けた。

「お前のことは、初めて見かけた時から絶対に手に入れたいと思っていたよ、アンジェリカ。ミルフーヴァ家の人間なだけあって、なかなか隙を見せてはくれなかったがな。親に内緒でバイオリンの個人レッスンを受けに行ってくれたおかげで、計画が立てやすくなったよ」

「どうしてそのことを…!?」

 言いながら、アンジェリカは気づいたようだ。ノースカペラホールの外で、フォルデと交わした会話が思い出される。

「まさか、あの時から…!?」

「くくく…プライベートな話をするときは注意した方がいいぞ? いつどこで、誰が聞き耳を立てているかわからんからな」

 俺はアンジェリカに近づき、その頬を撫でる。

「い、いやっ…! 触らないでください…!」

「美しいな。本当に人形のようだ。お前をここに連れて来れるとは、感慨深いよ。あの臆病な講師にはもったいないくらいにな」

「っ…! 先生は、無事なんですか!?」

 フォルデを侮辱されたことに怒りを覚えつつ、彼女は師の安否を確認してきた。

「ああ、安心しろ。あの後、一切手を出してなどいない」

 その証拠とばかりに、俺は1つのホログラム映像を呼び出した。画面に映るのは、音楽教室で椅子に縛られ、眠らされているフォルデの姿。

「先生!」

 これは録画映像なので、当然アンジェリカの声は届かない。撮影したのは俺が彼女を連れ去ってからおよそ1時間後だ。

 アンジェリカを連れ去る際、俺は撮影用のドローンを一機、フォルデの正面に設置しておいた。この後の計画の仕上げに必要だからだ。

 上手い具合にスタン銃の効果が切れてくれたようで、フォルデは目を覚ました。

『んぐっ…? っ…!?』

 視界と口が塞がれていること、椅子に拘束されていることから、意識を失う前の出来事を思い出したらしい。

『んんっ! んんんーーっ!!』

 目一杯に力を込めて、拘束を解こうとする。だが本来、拘束は強固で自力で外せるものではなかった。

 だが、この時点でアンジェリカをコロニー外へ連れ出していた俺にとって、もはや奴は用済みだった。

 フォルデにかけられた手錠は電子ロックで、俺がコードを入力しないと解除できない。

 俺は車を運転しながらパスコードを送信し、手錠を外してやった。

『んんっ!?』

 突然手錠が外れたことに困惑しつつも、チャンスとばかりにフォルデは目隠しを取り、猿轡も外した。自由になった彼は、状況を確認するべく辺りを見回す。

『くそっ! あいつはどこにいった…!?』

 もう俺はコロニーの外だから、見つかるはずもなく、追跡のしようもない。

 代わりに床に目立つように置いてあった、小さなメモリーカードと書き置きに気づいた。

『おはよう。目が覚めたらこれを見たまえ…? ふざけた真似を…!』

 メモリーカードを手首のデバイスにかざすと、中のデータがホログラム表示される。その中身を見て、フォルデは愕然とした。

『あ、アンジェ!?』

 映し出されたのは、コンテナの中に拘束されたアンジェリカの画像。

 そしてもう一つは、俺からフォルデに対するメッセージであった。

『お前の教え子、アンジェリカ・ミルフーヴァはもらった。このことを誰かに相談すれば、彼女の身の安全は保障されないと思え。ミルフーヴァ家の人間になにか聞かれても、知らぬ存ぜぬで通した方が今後のお前の人生のためだと助言しておこう』

 メッセージを読み終えたフォルデは、その場に膝をついた。

 俺の狙いと、これから自分に待ち受ける未来に気づいたのだろう。

『そんな、あぁ…アンジェ…!』

 床にうずくまり、彼の悲痛な叫びが木霊したところで、俺は映像を停止した。

 一緒に観ていたアンジェリカは、涙を流していた。

「違います…! 先生はなにも悪くないんです…!」

「くくく…事のあらましをお前の両親が聞いても、同じことを言うと思うか?」

「言います! だって…っ!」

 それ以上言葉が続かなかった。

 両親に相談もせず、繁華街に出向いて個人レッスンを受けることを決めたのはアンジェリカとフォルデだ。アンジェリカがその繁華街に行った間に失踪したと分かれば、真っ先に疑われ、責任を問われる人物は目に見えている。

「お前の両親はきっと、先生を許さないだろうな。奴はバイオリン講師としても信用を失い、行く当てをなくすんじゃないか?」

「あぁ…先生…!」

「現に、ミルフーヴァ家のご令嬢が行方不明になって数時間が経つのに未だ速報すら出ていない。勇気を持って即座に通報していれば、まだ俺の足取りを掴んでお前を助け出すことができたかもしれないのにな? 結局あの男には、そこまでしてお前を守る覚悟がなかったということだ」

「勝手に決めつけないでください! 今は無理でも、そのうちきっと、助けを呼んでくれるはずです…!」

 反論する言葉が震え、最後の方は歯切れが悪くなっていたのは、自信のなさの表れか。

「くくく…そうなるといいな? もっとも、それまでにお前の心と身体が無事でいられるかは別問題だが」

 頬から首筋へ、きれいに巻かれた金髪へと、手を撫で下ろす。

「触らないでくださいっ…!」

「残念だが、ここではお前の意思も、ミルフーヴァ家の威光も一切意味を成さない。お前をどうしようと、俺の自由だ。それこそ…」

 俺は光線銃を抜き、アンジェリカの眼前に突きつける。

「気に入らなかったら、いつでも処分だってできるというわけだ」

「ひっ…!?」

 怯える表情は、まだ年端のいかぬ、世間を知らぬ少女のものだった。

 いくら名家の人間としての教育を受けていても、学業で優秀な成績を納め、人前に立つことに慣れていたとしても、彼女はまだ14歳なのだ。

 もっとも、だからといってこちらは手心を加えてやる気など毛頭ないが。

「まずは自分の立場を、身体をもって理解してもらうことから始めようか。お前には抵抗する権利もない。自由もない。逃げ出せはしない。ただ俺の命令に従うしかない、奴隷でしかないということをな」

「な、なにをする、つもりですか…?」

 俺はその質問の答えとばかりに、部屋に置いてあった拘束具を手に取った。

 瓢箪のような形をした茶色い板。その中央に黒褐色のラインが走っている。アンジェリカならば、すぐに連想されるものが思い浮かんだだろう。

「それは…バイオリン?」

「ああ。だがこのバイオリンは、演奏するためのものではない」

 そもそもそれには弦も弓もなく、木製ではなく金属製だ。板には3箇所の穴が空いていた。

 瓢箪の膨らみの大きい方に、大きな穴が1つ。小さな膨らみの方には、左右に分かれて小さな穴が1つずつ空けてある。

「これはネックバイオリンという拘束具だ。3つの穴に首と両手を通して使う。こんな風に…なっ!」

「あっ!?」

 すかさず俺はアンジェリカの頭にネックバイオリンの大きい穴を被せた。避ける間もなく、アンジェリカは金属の板から首を通した姿になった。

 ピピッ、プシュウゥ!

「うっ…!」

 対象の頭が穴を通ったことを検知し、首の穴の淵が締まった。縁はエアバッグの要領で膨らみ、空気圧で装着者の首を絞めず、それでいて抜けないように圧迫する。

「い、いやっ! こんなの、いやです! 外してください!」

「できない相談だ。さあ、手錠を外してやる代わりに、おとなしく両手を穴に通すんだ」

「いやぁぁあっ!!」

 アンジェリカの両手を後ろに戒めていた手錠は外された。だが直後、俺は彼女の手首を片方ずつ、しっかりと掴んでネックバイオリンの穴に通した。

 プシュ、プシュ、と空気圧で締まる音が響き、彼女の両手首が固定された。

 目の前に両手は見える。だが、手はおろか、腕を自由に動かすことができない。

 首と手の距離が固定されているせいで姿勢も制御され、身を起こしたり屈めようとすると痛みが走るようだ。

「ぐすっ…いやぁ…どうして、私がこんな目に…?」

「くくく、美しいぞ、アンジェリカ。ネックバイオリンはまさに、お前にふさわしい拘束具だ」

 名家の令嬢として生を受け、輝かしい将来を確約されていたにも関わらず、プロのバイオリニストになるため両親に反抗してでも腕を磨いていたアンジェリカ。そんな彼女にとってこの拘束具は象徴ともいえるし、彼女の人生と覚悟を踏み躙る残酷な枷でもあっただろう。

「これからお前には性奴隷としての調教を受けてもらう。俺が命じれば進んで股を開き、チンポを舐めしゃぶる、従順なメスになってもらうからな」

「っ…!? そ、そんなの、いやです…!」

「言っただろう? お前に拒否権はないし、逃げ出す権利もない。俺が呼び出さない間は、自室で待機していてもらおう」

 俺は手首のデバイスからトラクタービームを放った。アンジェリカに対しては、ネックバイオリンと接続するよう設定してある。

「お前の監禁部屋を見せてやろう。歩け」

「か、監禁…!?」

 恐ろしい用語が飛び出し、アンジェリカは最初歩こうとしなかった。しかしトラクタービームによって繋がれている以上逃げようがなく、おとなしく部屋まで連行されていった。

 プシューッ、と音を立てて監禁部屋の扉が開いた。ちょうどサキ・イチミヤの部屋の真向かいだ。

「ここがお前の部屋だ。お屋敷に比べたら圧倒的に狭いし、不自由な歓迎となるが勘弁してくれよ?」

「い、いやです…! 閉じ込められるなんて、いや…!」

「奴隷に拒否権はない。おとなしく中に入るんだ」

「ぐっ…!」

 ネックバイオリンを引かれ、監禁部屋の中へ。

 出入口の方向に向き直らせ、その場に跪かせた。

 ガチャリ! ガチャリ!

「あ、あぁ…!」

 女の子座りの格好になったその両足首に、足枷を嵌めた。スカートの下に隠れた足から、蛍光ケーブルが伸びて壁に繋がっている。

「ど、どうして部屋の中でも拘束するんですか!? おとなしくしていますから、せめて拘束は外してください!」

「部屋の中で暴れられたり、自害されては困るからな。それとまあ、俺の趣味なのも理由だ」

「ひ、ひどいです…」

「さて、仕上げだ」

 俺はこの監禁部屋のプログラムを作動させた。

 アンジェリカの監禁方法に合わせ、用意しておいた機構だ。

 部屋の壁の四隅にそれぞれ設置してある、4つの装置。それらからトラクタービームが放たれた。

ビームは前方の2つ、後方の2つがそれぞれアンジェリカの前後で合流し、ネックバイオリンの前後の端と繋がった。

「これで完了だ。お前はその位置から動くことはできない」

「そんな…」

 アンジェリカは無駄だとわかっていただろうが、試しにその場から動こうとする。だがトラクタービームに前後から牽引されているせいで、ほとんど移動することができなかった。

 完全に身動きを封じられた彼女に追い討ちをかけるように、俺は彼女の口にボールギャグを噛ませた。

「いぁがっ…! あぁぁ…!」

 穴の空いたボールからよだれと吐息をこぼす姿は、およそ令嬢にふさわしくない無様なものだった。

「しばらくここでじっとしていろ。用ができたら、部屋の外へ出してやる」

「えぁぁぁぁ…!」

「せいぜいこのカメラに向かって、泣き顔を晒しまくるといい。いい顔でアピールするなら、早く構ってやれるかもしれんぞ?」

 監視ドローンを2体起動させ、俺は部屋を後にした。

 船長室に戻ると、俺は早速アンジェリカの監禁部屋の映像をチェックした。

 ドローンの1つはアンジェリカの正面上方から見下ろすように撮影し、彼女の表情をメインに映す。もう1台は彼女の周りを動き、全身の至る所を撮影していた。

「おぉぉっ! えぁぁぁぁっ…!」

 悲痛な呻き声を繰り返すアンジェリカ。だが強固な拘束によってどうすることもできない。

 囚われた天使は、絶望の涙を流す表情も美しかった。

 こんなに美しい高嶺の花を、自分のものにすることができた。

「計画成功、だな」

 難関と思われていたアンジェリカの拉致に成功し、俺は自信を深めることができた。

 そのご褒美は、これから捕らえた天使からたっぷりいただくとしよう…

 

アンジェリカ・ミルフーヴァ 捕獲完了

前へ ページ 次へ
1 2 3 4 5