惑星ラムーラ編 サキ 捕獲a

サキ・イチミヤ

〜献身的なマネージャー〜

 10人のターゲットのうち、俺は最初に女学生のサキ・イチミヤに狙いを定め、彼女の通うラムーラ公立C9アカデミーに向かった。

 アカデミーとは地球でいう学校のことである。

 かつては小学校、中学校、高等学校、大学と分けていたそうだが、宇宙進出してからは統一政府の方針でそれら全てをひとつにまとめることにした。現在のアカデミーはクラス1からクラス10までの10学年制となっており、サキが在籍しているクラス6は地球でいうところの高校1〜2年の学力が必要とされる。

 公立C9アカデミーはコロニー南部の商業地区付近に位置しており、東部と西部の住宅街からアクセスしやすく、ほとんどの学生が徒歩で通学している。アカデミー校舎の敷地内は学生IDを識別する警備ドローンが巡回しているので侵入は難しい。しかし校舎から少し離れたところに位置するサッカーグラウンドには、学生でない俺でも近づくことができた。こういった条件面も、サキをターゲットに選んだ理由のひとつだ。

 ユニフォーム姿の男子に混じり、アカデミーの制服姿の女子が一人いた。

 茶色い外ハネのショートボブ。

 クリっとしたエメラルドの瞳。

 小顔に均整のとれた顔のパーツの並び。

 やや小柄ながら出るところはきちんと出た体型。

 男子が皆揃って欲情しそうな美少女だった。

 サキはホログラムに浮かぶモニターを操作し、部員たちの動きを分析していた。

「サキちゃん、今の動きどうだった?」

「良い感じでした。シミュレーションにかなり近い形で、フォーメーションを維持できていましたよ」

 モニターにはサッカーフィールドの上面図にいくつもの点が浮かんでいる。おそらく作戦通りの動きができるように練習しているのだろう。

 

「サキちゃんがデータ分析してくれるようになって、チームの戦績がウンと良くなったよな」

「そうそう、プロのアナライザーが使うソフトも扱えるんだから、マジで頼もしいよ」

「いえ、そんな大したことじゃ…」

 照れながらいじらしく謙遜するサキ。

 しかし実際たいしたものだろう。ああいったソフトを用いた情報分析は社会人になってから学ぶのがほとんどだし、ソフトを使えてもそのデータを活かせるかどうかはまた別の話だ。

 情報処理、分析ともにこなす彼女は、おそらく学年でも優秀な部類に入るだろう。さしずめ彼女はこのチームのブレイン、勝利の女神といったところか。

「将来、こういう情報処理系の仕事に就きたいと思っているから勉強してるだけで…でも、少しでも貢献できてたら、とても嬉しいです!」

「十分してるって! なぁ、ケビン?」

「なんで俺に振るんだよ」

「なんでって…そりゃ、なぁ?」

「あ、あはは…」

 ケビン…あの背番号1の灰色髪のやつか。

 ぶっきらぼうな反応に、サキの笑顔がぎこちない。あの選手となにかあるのだろうか。

「よし、もう一回やるぞ! 今度の大会に向けて、より精度とスピードを上げていくんだ!」

「サキちゃん、記録よろしくね!」

「はい!」

 会話が一区切りついた様子で、男子たちはまたフィールドに散らばっていった。サキはいくつものモニターを開き、各選手の様子を観察していた。

「くくく…まさに青春だな。良い光景だ」

 そう呟きながらも、俺の視線はずっとサキに向いていた。

 真剣な眼差しでモニターを見つめる、澄んだ瞳。

 忙しなく動く、手袋に包まれた細い指。

 時折揺れるスカートの下、下半身の艶かしさを想像すると、股間が滾ってしまう。

「今日はこのくらいで切り上げるか…」

 まだ練習は1時間以上も続くはず。あまり長居して顔を覚えられると良くないので、この場は立ち去ることにした。

 今日得られた情報を、俺は頭の中で整理した。

・サキはサッカー部のマネージャー

・情報処理、分析能力に長けており、将来はそれを活かした仕事に就きたい

・ケビンという部員となにか関係性が窺える

・サッカー部は近いうちに大会を控えている

 これらの情報を皮切りに、サキの普段の生活と今後の予定を調べていく。ターゲットのことを知っていけば、拉致する最適な状況や方法を考案しやすくなるからだ。

「待っていろよ、サキ。お前のことを調べ尽くしてやるからな…」

 ほくそ笑みながら、俺はサッカーグラウンドを後にした。

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